
ファスナーに刻まれた物語:ヴィンテージジッパーの歴史と年代判別法
衣服やバッグに不可欠な存在である「ファスナー」。普段何気なく使っているこの小さなパーツにも、実は深い歴史とブランドごとの個性、そして時代を物語るストーリーが隠されています。特にヴィンテージファッションの世界では、ジッパーのメーカーやディテールの違いが、アイテムの年代を特定する重要な手がかりとなります。
今回は、主要なヴィンテージジッパーブランドに焦点を当て、その歴史、特徴、そして年代を見分けるためのポイントを徹底解説します。

ファスナーの歴史:HOOKLESSから始まった物語
ファスナーの原型が開発されたのは1893年。シカゴの技術者、ウィットコム・L・ジャドソンが考案した靴紐をまとめる「クロースプリング・ファスニング」がその始まりです。しかし、実用化には至りませんでした。
転機が訪れたのは1913年。スウェーデン出身の技術者、ギデオン・サンドバックが、画期的なスライド式の留め具を開発し、現在のファスナーの原型を完成させました。この技術は「HOOKLESS(フックレス)」という社名で事業化され、これが近代ファスナーの歴史の第一歩となります。
1925年には、BFグッドリッチ社が自社のブーツにこの「フックレス」ジッパーを採用し、ファスナーを「ジッパー(Zipper)」と命名。この呼称が一般に広まりました。
主要ヴィンテージジッパーブランドの解説
1. HOOKLESS (フックレス)

歴史: 現代のファスナーの原型を確立したブランド。
特徴: 初期は引き手が二重リングになっており、ジッパーというよりは「留め具」としての要素が強い。
年代判別:
~1920年代: 引き手がリング状のものが主流。
1930年代以降: 簡素化されたプレート状の引き手が登場。刻印は「HOOKLESS」のものが中心。
2. TALON (タロン)

歴史: HOOKLESSの後継ブランド。最も有名なヴィンテージジッパーメーカー。
特徴: 多種多様なモデルと刻印が存在し、年代を特定しやすい。
年代判別:
1930年代~: 「TALON」の刻印が入る。この頃はスライダーの形状が比較的シンプル。
1940年代~: 「TALON」のロゴが特徴的な書体になる。ミリタリーウェアにも多く採用され、無骨なデザインのスライダーが多い。
1950年代~: 「42 TALON」と呼ばれるモデルが登場。スライダーに「42」の数字が刻印されているのが特徴。デニムパンツなどでよく見られる。
1960年代~: 「TALON 42」の刻印が一般的になる。「TALON 42」の書体やスライダーの形状も様々。
1970年代以降: 持ち手がリング状の「TALON 42」や、ジーンズ向けの「TALON 428」など、様々なモデルが登場する。
3. CROWN (クラウン)

歴史: 1930年代に創業。第二次世界大戦中に米軍の装備品に多く採用された。
特徴: スライダーの形状が特徴的で、コの字型や「CROWN」の文字を模したようなデザインが多い。
年代判別:
1930年代~: コの字型のスライダーが特徴。
1940年代~: 「CROWN」のロゴが刻印される。この時代のフライトジャケットやミリタリーウェアでよく見られる。
4. CONMAR (コンマー)
歴史: 1930年代に創業。こちらも米軍の装備品に多く採用されたことで有名。
特徴: 引き手の裏に「CONMAR」と刻印がある。細長いスライダーや、独特の形状をしたものが存在する。
年代判別:
1940年代~: 「CONMAR」の刻印があるシンプルなスライダーが多い。フライトジャケットやデニムによく見られる。
1950年代~: 刻印がより鮮明になり、裏に製造番号のようなものが刻印されることも。
5. SCOVILL (スコヴィル)
歴史: ボタンやスナップボタンで有名なメーカー。1940年代にジッパー製造に参入。
特徴: 刻印が「SCOVILL」のものが多く、シンプルなデザイン。
年代判別:
1950年代~: 「SCOVILL」の刻印が入る。
1960年代~: 「GRIPPER」ブランドを吸収し、「SCOVILL GRIPPER」という刻印が入るモデルも登場。