2025/09/01 14:13
アクアスキュータムの歴史、特徴、そしてタグが語る物語

英国を代表する老舗ブランド「アクアスキュータム」。その名は、トレンチコートの歴史と共に語り継がれています。今回は、アクアスキュータムがどのようにして世界的なブランドへと成長したのか、その歴史、製品の特徴、そしてヴィンテージファンに必須のタグの年代判別法について解説します。


アクアスキュータムの歴史:革新と伝統の融合
アクアスキュータムの創業は、1851年にロンドンで仕立て職人だったジョン・エマリーが紳士服店をオープンしたことに始まります。創業からわずか2年後の1853年、彼は画期的な技術を開発しました。それは、防水加工を施したウール生地です。
この技術は、雨の多いイギリスの気候に最適なアウターとして瞬く間に評判を呼び、ブランド名はラテン語で「水(aqua)」と「盾(scutum)」を組み合わせた「水の盾=アクアスキュータム」と名付けられました。

その後、クリミア戦争でイギリス軍の将校たちにその防水性の高いコートが採用され、機能性と品質の高さが証明されます。さらに、第一次世界大戦では、兵士たちが身を守るために着用したコートが「トレンチコート(塹壕のコート)」と呼ばれるようになり、戦後に一般にも広まりました。
1897年には、当時の皇太子(後のエドワード7世)からロイヤルワラント(王室御用達の勅許)を授けられ、名実ともに英国を代表するブランドとしての地位を確立しました。

1953年には、エベレスト登頂を目指したエドモンド・ヒラリー卿のチームのために、防風性・耐久性に優れた「ウィンコル」という生地を開発するなど、常に革新的な技術を追求し続けました。また、1976年にはブランドの象徴である「クラブチェック」が誕生し、コートの裏地として使用されるようになります。

アクアスキュータム製品の特徴とディテールの変遷
アクアスキュータムの製品、特にトレンチコートは、単なるファッションアイテムを超えた芸術品のような存在です。
1. 優れた防水性と保温性
創業以来のこだわりである、防水加工を施したウール生地や、1950年代に開発された「Aqua5」という撥水加工生地は、機能性を追求した証です。
2. クラシカルなデザインとディテール


トレンチコートには、軍服に由来する様々なディテールが残されています。
エポーレット(肩章): 元々は将校の地位を示すもので、グローブなどを下げる役割も果たしました。
ガンフラップ(ストームフラップ): ライフル銃を撃つ際の衝撃から体を守るためのディテールで、現在は水がコート内部に入るのを防ぐ役割も持ちます。
Dリング: 手榴弾などを吊り下げるために使用されました。
深い打ち合わせとダブルブレスト: 風雨の侵入を防ぐための構造です。
ラグランスリーブ: 肩や腕の動きを妨げないように設計されています。
ディテールの変遷
裏地: 1976年以前のコートは、伝統的なタッターソールチェックやタータンチェックが裏地に使用されています。その後、クラブチェックが定番となりました。
シルエット: ヴィンテージのトレンチコートは、現代のものに比べてゆったりとしたAラインのシルエットを持つものが多いです。

タグで判別!アクアスキュータムの年代別見分け方
ヴィンテージのアクアスキュータム製品を見分ける上で、タグは非常に重要な手がかりとなります。特に「Aqua5」の表記があるタグは、年代判別に役立ちます。
1. ~1960年代
特徴: 「Aqua5」のタグに、赤文字で注意書きや取り扱い方法が記載されています。この赤文字タグは非常に古い年代の証です。
2. 1970年代~1980年代
特徴: 「Aqua5」のタグは続きますが、赤文字の注意書きがなくなり、「AQUASCUTUM」の表記が黄色い文字になっていることが多いです。カナダ製の製品では縦長のタグが使われることもあります。
3. 1990年代~
特徴: タグのデザインがよりシンプルになります。取り扱い表示などの文字がなくなり、ブランド名や製造国名のみのモダンなデザインに変化します。この頃から、現代に近いデザインのタグが主流となります。
まとめ
アクアスキュータムは、創業以来、革新的な技術と優れた職人技で、常に最高品質の製品を世に送り出してきました。そのトレンチコートは、機能性とデザイン性を両立させた不朽の名作であり、英国の歴史と文化を象徴するアイテムです。
ヴィンテージのアクアスキュータムを手に入れる際は、今回ご紹介したタグの見分け方をぜひ参考にしてみてください。タグが語る物語を読み解くことで、その一着が持つ深い歴史と魅力を感じられるはずです。